第261話 将来の農薬は減る?増える? 世界の農薬需要を考える

2021.07.14

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は都内の公園を散歩しながら投資談義を行っています。


神様:今日は、「農薬」についてお話しようと思います。多くの農産物には農薬が使われているわけですが、Tさんは、今後の農薬の需要は減ると思いますか、それとも増えると思いますか?

T:私は、需要は減っていくと思います。日本の農業は生産者が減少し、高齢化しています。労働力不足・後継者不足の中で、まず増えることはないのではないでしょうか。

神様:なるほど、確かにその通りで、国内の農薬市場は横ばいの傾向です。

T:農林水産省では、2021年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定しました。今後の持続可能な開発目標(SDGs)や環境を重視する動きに対応するべく、2050年までに化学農薬の使用量を50%低減する目標などを掲げています。EUなどでも同様の目標を掲げており、今後は有機農業の推進が加速するでしょう。

神様:国内の動向を見ると、まず2016年11月に政府主導で「農業競争力強化プログラム」が開始されました。このプログラムでは、農業生産者の競争力強化を目的に、農薬価格の引下げや後発薬の開発と利用を促しています。次に、2018年には「農薬取締法」の一部を改正する法律が施行され、農薬の規制が厳しくなりました。

T:やはり国内の状況を見ると農薬の使用は厳しくなりますね。では神様も農薬需要は減っていくと思いますか?

神様:いいえ。私は、農薬の需要は増えていくと思います。

T:え、なぜですか?

神様:それは海外市場にポイントがあります。今後の海外の農薬市場は拡大が予想されるのです。2019年に国連が発表した2050年の世界人口は97億人とされています。現在の77億人から20億人の増加です。一方で世界の農地面積には限りがありますから、問題となるのは食糧不足です。農産物の生産性の向上を目的に農薬の需要は高まっていくでしょう。世界では業界大手のスイスのシンジェンタが中国企業に買収されるなど、市場の再編が活発化しています。

T:確かに、差し迫る食糧不足の解決を手間のかかる有機農業だけで可能なのか?と言えば、難しいのかもしれませんね。

神様:「みどりの食料システム戦略」によれば、化学農薬の使用量の低減はリスク換算で行われます。つまり、低リスクな農薬への転換や、従来の殺虫剤に代わる新しい農薬が開発されて、それを使用すれば良いわけです。

T:「農薬は悪いもの」であると考えるのは早計ですね。

神様:農薬工業会によれば、農薬はSDGsに貢献する役割を持つものであり、農薬の役割について正しい理解を促進・共有することが大切であると説いています。限られた農耕地や水資源のもとで、農作物の収量や品質を確保し、世界の食料需要に応えるためだけでなく、森林などの緑を守る働き、農業の効率化を図る働き、農作物のカビ毒リスクを低減する働きなど、様々な役割が農薬にはあるのです。

T:従来使われてきた農薬でリスクの高いものは、より安全で安心な農薬に変えて使っていく。世界中でこの運動をしっかり行っていくことが大切ですね。

神様:そうです。世界の食糧危機を救うのはより安全な農薬を開発するメーカーかもしれませんね。農薬業界は製薬企業と似たような構造を持っており、研究開発と安全性に多くの時間とコストがかかります。世界で農薬市場の再編が進む中、国内の農薬企業が海外で活躍できるか、これからが腕の見せ所だと思いますよ。

(この項終わり。次回7/21「アフターコロナのIC市場、史上初の規模へ 今後の動向は?」掲載予定)

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