第360話 日本は導入遅れも 世界市場拡大する「デジタルツイン」とは?
株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、下町のお茶屋さんで抹茶を飲みながら投資談義を行っています。
T:7月26日の総務省の発表によると、日本人住民の人口が平成21年をピークに14年連続で減少したことがわかりました。日本人の自然減少数は約80万人になったということです。1年で80万人減少するのは衝撃です。
神様:外国人住民は約8000人の増加でしたね。日本人口は合計で1億2,541万6,877人となりました。一方で、世帯数は毎年増加しています。この意味がわかりますか?
T:単身世帯が増えているということですね。日本の人口減少をすぐに改善することは難しいことですが、まずは出産・育児が安心してできる社会を作っていきたいですね。
神様:そうですね。さて、前回に引き続き今回も製造業についてお話したいと思います。ここ数年、製造業ではある技術に注目が集まっています。Tさんは「デジタルツイン」をご存知ですか?
T:初めて聞きました。どういう意味でしょうか?
神様:直訳すると”デジタルの双子”です。これは、現実世界の情報をもとに仮想世界に「双子」を構築し、そこで様々なシミュレーションを行う技術です。
T:仮想世界とは、インターネット上のことですか?
神様:仮想世界とはデジタル空間です。必ずしもインターネット上でなくても構いませんが、デジタル空間上に現実世界と同じような環境を構築するためには、インターネットで接続された様々なIoT機器から多様なデータをリアルタイムで取得し、デジタル空間に反映させることが必要です。
T:メタバースのようなものでしょうか?
神様:メタバースに近いですが、デジタルツインはあくまで現実世界を忠実に再現することを目指します。現実世界と同じような環境を作ることで、製品についての精度の高いシミュレーションができるのです。最近はさらにAIによる分析が加わりつつあります。
T:AIやIoT、そして仮想空間という最新技術を活用することで、これまでよりも高度なシミュレーションが実現できるのですね。
神様:デジタルツインを活用することで、試作にかかるコストや時間の削減ができ、故障や劣化を予測して稼働率の低下を防ぐことができるなど、多くのメリットがあります。市場も今後大きく拡大するでしょう。グローバルインフォメーションの調査によると、デジタルツインの世界市場は2022年に109.1億ドルとなりました。今後は年率39%の成長により、2027年には566.6億ドルまで市場規模が拡大すると予測されています。
T:まさに、次世代の新しいシミュレーションといったところですね。
神様:「次世代の」というのはちょっと違うかもしれません。デジタルツイン技術の普及率は国によって異なります。アルテアエンジニアリングが世界10か国においてデジタルツイン技術の導入に関する調査をしたところ、「デジタルツイン技術を活用している」と答えた割合が最も高かった国は中国で、活用率は実に94%でした。2位はインドで活用率は92%、その後にアメリカの75%、英国の66%と続きます。
T:日本は何位でしょうか?
神様:日本の活用率は59%で、10カ国中9位となっています。また、今後の導入予定についても、日本では「わからない」と回答する企業が多く、日本のデジタルツイン技術の活用が遅れていることがわかります。
T:しかし、人口がどんどん減少している日本でこそ、デジタルツイン技術が必要でしょう。日本は他の国以上にコストの削減や生産性の向上が求められるはずです。なぜ他国に比べて導入が進んでいないのか、残念ですね。
神様:現在、製造現場の国内回帰が進んでいます。また、海外企業による日本での設備投資も活発化しています。今後、日本でも製造現場の効率化を求める動きが加速していくでしょう。その中で、デジタルツインの活用の機会がさらに高まることが期待されます。
(この項終わり。次回8/9掲載予定)
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