第273話 少子高齢化で急がれる保険業界のDX

2021.10.20

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、カフェで紅茶を飲みながら投資談義を行っています。


神様:今さらな話ではありますが、Tさんは「DX」とは何か、ご存知ですか?

T:DXは「デジタルトランスフォーメーション」の略称で、「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面で良い方向に変化させる」という仮定のもと、デジタル化を推進する考え方ですね。

神様:そうですね。単なるデジタル化ではなく、デジタル化を活用して人々の生活を良い方向に変化させることがDXです。今、日本ではさかんにDXが叫ばれていますが、それはなぜか分かりますか?

T:世界中でデジタル投資が活発化する中で、デジタル競争に取り残されないため、ではないでしょうか。

神様:おっしゃる通りです。経済産業省では「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」の中でDXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。日本企業がDXに取り組まなければ、2025年から2030年にかけて年間12兆円の経済的損失を被ると予測されています。これは「2025年の崖」と呼ばれています。

T:2025年の崖、ですか。

神様:日本の基幹システムの多くが老朽化、維持管理費が高額化し、データを十分に活用できず、さらにはIT人材の不足が約43万人まで拡大するなど、2025年にはシステムの多くの問題が顕在化し、その年以降で大きな損失となって現れます。

T:2025年まであと3年と少しですが、この問題を何とかしなければいけませんね。

神様:例えば、生命保険業界を見てみましょう。2019年度の大手生命保険29社の保険料収入は前年度比で4.7%減の33兆9,127億円でした。2018年に死亡率の算出基準となる標準生命表が11年ぶりに改定されましたが、前回(2007年)と比べて、全年齢の死亡率が低下し、平均寿命が延びました。そのため死亡保険料が引き下げられましたが、一方で医療保険は値上げとなりました。

T:医療保険はなぜ値上げとなったのでしょうか?

神様:そこがポイントです。生命保険会社は「将来の保険金の支払いに充てる財源の確保」という観点から、安全性を重視した運用が義務付けられています。一方で、日銀の長引く金融緩和政策によって、国債での運用が難しいのが現状です。近年の収入保険料の推移を見ると収入は減少傾向にあります。各社、保険料の引き下げや運用益減に苦しんでいます。

T:今後さらに少子高齢化が進みますし、業界全体が厳しい風にさらされている状況ということですね。

神様:2025年には、団塊世代の全てが75歳以上の後期高齢者となる年を迎えます。こちらは「2025年問題」と呼ばれていますね。さらに、団塊ジュニア世代が60歳以上となり、団塊世代の死亡数が増えるとされるのが2035年であり、「2035年問題」と呼ばれています。保険金の支払いが増加する一方で契約者の減少が見込まれますが、まさに、変化への対応が早急に求められている状況です。

T:生保業界の場合は、世界との競争より国内問題への対応が肝心なところですが、そこでDXが注目されている、ということですか?

神様:その通りです。生保業界ではDXへの注目度が非常に高いです。問い合わせなどのオートメーション化、従業員の事務負荷の軽減、顧客の手続きなどの負荷軽減や保険金受給までの日数短縮、さらにはデータを活用した保険商品の開発などにより、業務・組織・プロセスの改革や商品・サービスの改革を進めています。Tさんのおっしゃるように、少子高齢化では日本は最先端です。生保業界の成功事例が今後の良いモデルになるかもしれませんね。

(この項終わり。次回10/27「企業5割超がIT人材「足りない」 IT人材確保に必要なことは?」掲載予定)

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